AR以外の電脳コイル:イリーガル

電脳コイルといえばAR、ARといえば電脳コイルと思われるぐらい
AR(拡張現実)で有名な作品に対して、あえてAR以外の内容に注目しています(T_T)
この作品は、モチーフにはハイテクを使っていますが、テーマは人間の意識や心に触れていて、
とても興味深いです。
攻殻機動隊にも通じるものがあると思いますが、攻機がゴーストという生物の本能に近い観点で
魂を描いているのに対し、電脳コイルは意識、無意識、集合的無意識の階層に重きをおいて
魂を描いたように思います。
人間の役に立つ機器を研究していたら、いつの間にか人間の研究をしていた。
そんなことはよくあることです。

さて、作中には「イリーガル」という不気味な存在があります。
真っ黒で、目と思われる光が2点発光していて、両手両足と思われる突起から
なんとなく人の形を連想させる、正体不明の存在です。
現実世界に存在するだけでダメージを受けるのに、物語の冒頭から色々な人物に追いかけまわされたり、
殺されかけたりと、とてもかわいそうです。
物語には髭のように人間にとりついたり、魚のような形をしていたり、色々とバリエーションがありますが、
ここでは、人型のかわいそうなイリーガルに焦点を当てます。

このイリーガルはどこからやってくるのか。
ここに全ての鍵があります。
作中の世界には、新しい空間と、古い空間があり、どうやらイリーガルは古い空間が
好きなようです。
前にも書きましたが、新しい空間はメガネを通して意識同士をネットした世界であり、
古い空間は集合的無意識を仮想化した世界です。
イリーガルはこの集合的無意識側の存在で、詳細は分かりませんがバグを通して、
意識の世界へやってくる不法侵入者のようです。

作中ではペットを亡くした女の子が、そのペットの面影をイリーガルに見つけたり、
好きな女の子を事故で亡くした男の子が、その女の子の面影をイリーガルに見つけたり、
半ば幽霊や怪談のようにイリーガルが語られます。
これはどういうことでしょうか。

ペットや好きな子を突然亡くしたら誰だって悲しみます。
どんなに明るい人でも気分が落ち込み、抑鬱気分になります。
しかしそれでも、時がたち、日々の生活に追われ、そして楽しい経験を重ねるうちに
悲しみは風化していき、いつの間にか立ち直ります。
では立ち直った時、最初に感じたその悲しみはどこへ行ったのか。
ここが面白いところで、悲しみは消滅したわけではなく、意識から無意識へ移ったので
意識できなくなり、そして元気になるというのが心の働きです。

無意識へ移った悲しみは、やがて人類共通の集合的無意識へとたどり着き、
そこでイリーガルになります。
正確には、古い空間=集合的無意識にいる間はイリーガルではないのですが、
バグによって新しい空間=意識へ発露するとイリーガルになります。
作中でイリーガルは真っ黒な象徴的な姿で描かれますが、このような存在を「影」と呼びます。
影は常に意識によって抑圧されていますが、その存在が大きくなると、意識は抑圧だけに
エネルギーをとられ、生活に支障が出たり、うっかりミスをしたりと、まさに現実世界へ
不法侵入してきます。
これがイリーガルです。

そしてイリーガルがキラバグという宝を持っているという設定も面白い。
無意識を提唱した人は、影の存在は悪であり、それを排除することが治療だと考えました。
しかし、その人の弟子は影こそ心の成長に必要なものだとみなし、意識への統合を試みました。
影と名付けたのは弟子の方なのですが、うまく影を捕まえれば宝物が手に入り、統合すれば
素晴らしい力が得られるというこの作品の設定は秀逸です。

作中のメガバス社はイリーガルを武力的に排除しようとしたのに対し、
コイル社はイリーガルを利用して、無意識を修復しようとしました。
現代社会はメガバス的ですね。
鬱病になっても、薬を飲むだけで、とにかく排除するのみです。
強制フォーマットを毎日しているだけです。
これでは治るはずのものも治りません。
AR 関連で、多くの技術者がみている作品だと思いますが、
精神医療に携わる人間にもみてほしい作品だと思いました。

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